◎沢雅之 21歳 練馬区在住
熊の大きな頭を取ると、中から玉の様な汗を掻いた君が出てくる。
「ふわー暑かった~」
そう言う君の顔は、今にも湯気が立つかのようだった。
「でも、楽しかったですよー」
そうやって、君は僕にニッコリ微笑んだ。
次は僕の番だ。
君と僕は、ゲームセンターで一緒に働いている。
この8月でお互い1ヶ月になる。
炎天下の昼1時に、着ぐるみに入って店頭に出るなんて、バイト仲間の誰もが辞退したけれど、僕はその役にすすんで手を挙げた。
何故なら、君も手を挙げたから。
君がさっきまで着ていた着ぐるみは、まだ君の体温で暖まっていて
腕に手を通すと、その先は、君の汗でびっしょりと濡れていた。
そして、胴体に体を押し込めると、首筋にも尋常じゃない湿り気を感じた。
頭を被ると、孤独で真っ暗な世界のスタートだ。
シャンプーの匂いにカモフラージュされた、すこぶる湿度の高い空気が僕の頭を取り囲む。
さっきまで君がこの中で格闘していた、何にもかえがたい証拠だ。
着ぐるみを着ると、予想以上に歩きにくい。
普段よりも大きく脚を上げて、大股で歩かないと動かない。
しかも、頭も胴体も重く、バランスを取ることさえも難しい。
それらをキープするだけで、体中から汗が噴き出る。
店頭に出たときには、既に顔中から汗が噴き出ていた。
もはや自分の意志とは無関係に噴き出る汗が、目の中に流れ込む。
痛い。でも、拭うことも出来ない。
前方にある小さな丸二つから、外を伺う。
小さな子供が僕の足元に寄ってきているのがわかる。
が、抱きつかれる感触はあるものの、真下にいる子供達は全く見えない。
手探りで、子供達を抱きしめる。
「こらー、正体を見せろー!」
少し大きな男の子が、目の覗き穴を覗き込む。
「誰か中に居るんだろー!」
彼の顔が間近に迫る。でも、彼には僕の姿は見えないらしい。
「ちきしょー、誰もいないのかよ」
そういうと、彼は背後に回り、僕の背中に飛び掛る。
僕はバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。
なんとか持ちこたえるが、その後も何度も後ろから相当な力を感じた。
「誰かこの子を何とかしてくれよ・・・」
篭りがちにしか聞こえない外の喧騒の中で、サポートするはずの同僚がどこに居るのかも分からず、不安になる。
やがて、母親らしき女性の怒号とともに、この執拗な攻撃はピタっとやんだ。
そして僕は、恐らくスタッフであろう誰かに右手を無理やり引っ張られ、それに引かれるまま立ち位置を移動した。
どうやら、知らないうちに隣の店の前まで引っ張られていたらしい。
「お疲れ様ですー」
控え室に戻って、頭を取った僕に、君は嬉しそうに話しかけた。
その後、僕と君にしか分からない、着ぐるみの中の苦労の話で花が咲き、盛り上がった。
「でも、初めてにしては、なかなかいい動きしてましたよね!ひょっとして◎沢さん、子供扱うの巧かったり?」
僕は笑ってごまかしたが、本当の事を言えない自分に、正直少し落ち込んだ。
「僕が着ぐるみを着たいのは、君が着るって言ったからなんだ・・・」
熊の大きな頭を取ると、中から玉の様な汗を掻いた君が出てくる。
「ふわー暑かった~」
そう言う君の顔は、今にも湯気が立つかのようだった。
「でも、楽しかったですよー」
そうやって、君は僕にニッコリ微笑んだ。
次は僕の番だ。
*
君と僕は、ゲームセンターで一緒に働いている。
この8月でお互い1ヶ月になる。
炎天下の昼1時に、着ぐるみに入って店頭に出るなんて、バイト仲間の誰もが辞退したけれど、僕はその役にすすんで手を挙げた。
何故なら、君も手を挙げたから。
*
君がさっきまで着ていた着ぐるみは、まだ君の体温で暖まっていて
腕に手を通すと、その先は、君の汗でびっしょりと濡れていた。
そして、胴体に体を押し込めると、首筋にも尋常じゃない湿り気を感じた。
頭を被ると、孤独で真っ暗な世界のスタートだ。
シャンプーの匂いにカモフラージュされた、すこぶる湿度の高い空気が僕の頭を取り囲む。
さっきまで君がこの中で格闘していた、何にもかえがたい証拠だ。
*
着ぐるみを着ると、予想以上に歩きにくい。
普段よりも大きく脚を上げて、大股で歩かないと動かない。
しかも、頭も胴体も重く、バランスを取ることさえも難しい。
それらをキープするだけで、体中から汗が噴き出る。
店頭に出たときには、既に顔中から汗が噴き出ていた。
もはや自分の意志とは無関係に噴き出る汗が、目の中に流れ込む。
痛い。でも、拭うことも出来ない。
前方にある小さな丸二つから、外を伺う。
小さな子供が僕の足元に寄ってきているのがわかる。
が、抱きつかれる感触はあるものの、真下にいる子供達は全く見えない。
手探りで、子供達を抱きしめる。
「こらー、正体を見せろー!」
少し大きな男の子が、目の覗き穴を覗き込む。
「誰か中に居るんだろー!」
彼の顔が間近に迫る。でも、彼には僕の姿は見えないらしい。
「ちきしょー、誰もいないのかよ」
そういうと、彼は背後に回り、僕の背中に飛び掛る。
僕はバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。
なんとか持ちこたえるが、その後も何度も後ろから相当な力を感じた。
「誰かこの子を何とかしてくれよ・・・」
篭りがちにしか聞こえない外の喧騒の中で、サポートするはずの同僚がどこに居るのかも分からず、不安になる。
やがて、母親らしき女性の怒号とともに、この執拗な攻撃はピタっとやんだ。
そして僕は、恐らくスタッフであろう誰かに右手を無理やり引っ張られ、それに引かれるまま立ち位置を移動した。
どうやら、知らないうちに隣の店の前まで引っ張られていたらしい。
*
「お疲れ様ですー」
控え室に戻って、頭を取った僕に、君は嬉しそうに話しかけた。
その後、僕と君にしか分からない、着ぐるみの中の苦労の話で花が咲き、盛り上がった。
「でも、初めてにしては、なかなかいい動きしてましたよね!ひょっとして◎沢さん、子供扱うの巧かったり?」
僕は笑ってごまかしたが、本当の事を言えない自分に、正直少し落ち込んだ。
「僕が着ぐるみを着たいのは、君が着るって言ったからなんだ・・・」